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『近代絵画史(上)(下)』高階秀爾 感想

  近代美術史を勉強したくて、一冊の本に出会いました(上下2巻本ですが)。中公新書『近代絵画史(上)(下)』高階秀爾の感想です。

 近代絵画を学ぶためのリーズナブルで通史的なオススメの一冊です。

  本書では近代から始まる近代絵画史を概観します。近代絵画史というのは一般的に言って西洋絵画史になります。もちろん日本の近代でも他の地域でも絵画というのは描かれていますが、西洋絵画が学問的に中心的な地位を占めています。

 近代というのは印象派から始まり現代にまで及ぶ美術において圧倒的な多様性のある時代だと思います。それは印象主義キュビズムやシュレレアリズム、ゴッホピカソといった主義や巨匠の名が数多く挙がることからもわかります。一方で、こうした多様性は全くのバラバラな運動の集合ではなく近代以前の伝統から出発しています。その歴史の流れを知ることができるのが高階秀爾著『近代絵画史』なのです。

 

 本書は絵画における近代という題から出発しています。「ルネサンス以来、四百年間にわたっての西洋絵画が追い求めてきた統一的な視覚像は、印象派においてひとつの頂点に達したと同時に、そこで解体し、崩壊して、『近代絵画』と呼ばれる新しい表現に席を譲った」*1と書かれています。つまり西洋には、この本では語られませんが、ルネサンスという一つの頂点があり、ルネサンスの特徴を昇華させつつ今までの伝統を破壊したのもまた印象派であったということです。そしてこの一連の流れから近代絵画史は始まったと言えるでしょう。

 ルネサンスの絵画に関する記述はありませんが、西洋絵画史を学ぶ上でルネサンス期の絵画、古典主義は必須の知識であるので他の本で補いましょう。

 

 印象主義の目覚めであるロマン主義の説明から始まり、抽象主義までの歴史を上下約400ページでたどるのは容易ではありません。主要な芸術家や○○主義や××派を取り上げていますが、一人または一つの主義でも膨大な作品や思想、生い立ち、歴史があるためその説明は簡素で、それよりむしろ歴史の流れを追う本になっています。多少ですが、文章に出てくる絵画もカラーで載っているので理解の助けになりますが、自分で調べてみてみる必要はあります。やはり絵画、つまりは絵なので、もちろん本物を見たいですがそれができなくてもインターネットや画集で観覧することができるので、そうして知識を増やして目を肥えさせたいです。

 それぞれの芸術家の生涯や作品は他の解説本に任せて、絵画の流れを知ることがこの本から得られる重要なものです。その点では、分量も多くなく、しかし多くの画家に触れており、絵画史の全体図が読み取りやすいと思います。オススメです。

 

 最後に、序言では、絵画は虚心に向かいあってその良さを愉しむこともできる、しかし作品の時代背景やピカソの生涯を知ってこそ、作品は語りかけるということを言っていました。まさにこの通りで、作品と何も知らない自分との対話よりも少しでも知識を得た自分の方が、何倍もその作品のことを理解できると思います。作品には、作品意図というものを持っていることも多いので、そういうものを理解したい。それに絵画は有名無名にかかわらない芸術家たちの積み重ねの上にあるのだから。

 

 

 

*1:高階秀爾『近代絵画史(上)』中公新書 2ページ