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『ユリイカ バーチャルYouTuber』2018年7月号 感想

バーチャルYouTuberVRに興味があります。いまさらですが、『ユリイカ バーチャルYouTuber』2018年7月号を読みました。

  まずこの『ユリイカ』という雑誌ですが、青土社から出ている批評誌です。しばしば、アニメや漫画家なんかも取り上げられるのですが、難しいテーマのことも多いです。そのため毎月買うというよりは好きなテーマが取り上げられたときに読むという雑誌ですね。

 既刊一覧はここから確認できます。

 

 バーチャルYouTuberはYouTuderのバーチャル版で、主に3Dのアバターを使って動画配信をしています。キズナアイが有名です。これを書いている2018年9月5日現在、キズナアイのチャンネル登録者数は200万人超えです。すごいです。

www.youtube.com

 ちなみにまだバーチャルYouTuberの定義はありません。

「外見がコンピューターグラフィックス(CG)やイラストの美少女」であるユーチューバー

ユーチューブのCGアイドル 「Vtuber」が人気爆発|MONO TRENDY|NIKKEI STYLE 

 

YouTuberとして動画配信・投稿を行うバーチャルアイドル 

バーチャルYouTuber - Wikipedia

 

主にYouTube上で動画等の配信活動を行う架空のキャラクター群を指すのに用いられる呼称である。

バーチャルYouTuberとは (バーチャルユーチューバーとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

  など、いろいろな説明がなされていますが、共通の定義はありません。一方で、動画配信を行うキャラクターであることは共通しています。現在多くのバーチャルYouTuberが活動しているので、一方的な定義はできないと思います。

 

 

 今回の記事は『ユリイカ』のバーチャルYouTuber特集の感想なので、バーチャルYouTuber自体についてはここまでにして、以下感想です。

 

 『ユリイカ』にはいろいろな方の記事が載っていますが、大きく分けて二つの種類に分けられます。一つは様々な分野の専門家による論文や論考。もう一つは、バーチャルYouTuber本人による寄稿やインタビューです。本書の見所は、このバーチャルYouTuber本人によって語られたバーチャルYouTuberについてだと思います。

 その中でも一番面白いのは、バーチャルYouTuber人気ナンバー1のキズナアイのインタビューです。一見すると、オタク向けのコンテンツに見えなくもないキズナアイですが、どのような気持ちで、またどんな野望を持ちバーチャルYouTuber活動をしているかが伺えます。キズナアイの見た目や年齢設定はオタクに照準を合わせて決められたようですが、それは初めの一歩でしかなく、今後全人類に向けた活動をしていくようです。

 他にも、届木ウカ月ノ美兎皇牙サキなど聞いたことある名前もない名前の方も記事を寄稿していてとても読み応えがあります。

 

 私はバーチャルYouTuberは誰かということに興味があるので、特に本人または中の人の書くことはとても興味深く読みました。バーチャルYouTuberは外のキャラクター(ガワ)と中の人がいます。ほとんどのバーチャルYouTuberはそれが別れていて、演じているにせよ、同化してるにせよあまり中の人の存在を出さない傾向にあると思います。特にキズナアイは自身はAIと名言しているので、モーションをしている人や声を出している人がいるはずなのに、それを感じさせません。

 私は、バーチャルYouTuberは現実の「私」とは異なる私を表現したい人にとって有用なものだと思っていますが、そうした使い方をする人はまだあまりいないようです。しかし、届木ウカの寄稿は、届木ウカというキャラクターをもう一人の自分のように扱っているのかと思いましたが、そう簡単な話でもないようです。

 バーチャルYouTuberを自分の分身のように考えている人もいるし、キズナアイ輝夜月のように完全に一人のキャラクターとして独立している人もいるということが分かりました。まあいろいろなスタンスで活動してる人がいるということですね。

 

 また、こうしたVTuberバーチャルYouTuberの別称)とは誰かという問題を考える論文もありました。私が考える疑問のヒントにもなりそうです。難波優輝の『バーチャルYouTuberの三つの身体 パーソン、ペルソナ、キャラクタ』pp.117は、バーチャルYouTuberとは誰かを考える方法を導入した論文だったと思います。この論文を読む前はゴチャゴチャと考えがまとまっていませんでした。しかし今思うに私は、中の人の存在が見え隠れするバーチャルYouTuberですが、私が見ている人は誰かなのか、それは設定の、またはバーチャルのキャラクターなのか、それとも中の人なのか、あるいは違った何かなのかという疑問を抱いているようです。私の考えを整理してくれて、またその手がかりになるのが彼が導入する「三層理論(three tiered theory)」でしょう。

 こちらではおそらく『ユリイカ』寄稿前の彼の「三層理論」が読めます。私自身、こっちはまだ読んでいないのでこれから読みます。

lichtung.hateblo.jp

 

 バーチャルYouTuber本人の文章も、専門家として「バーチャルYouTuber」を分析する文章もとても刺激的です。それは、まだまだバーチャルYouTuberが新しい存在であること、VRに関連すること、技術的に新しい何かが生まれるのではないかという期待から出てきていると感じます。

 本書全体を通して映画『マトリックス』を言及する人が多くいて、SFが現実になりつつなるのではないかという高揚感もあります。またバーチャルYouTuberバーチャルとは何かということを問題視する人も多かったのが印象的でした。それだけバーチャルYouTuberバーチャル(virtual)という語が私たちにとって曖昧で掴みにくいということを示しているように感じました。

 バーチャルYouTuberはもちろん、関連技術の進歩、それによる人間の身体の拡張などワクワクするトピックは多くあります。今後が楽しみです。

 

ユリイカ 2018年7月号 特集=バーチャルYouTuber

ユリイカ 2018年7月号 特集=バーチャルYouTuber

 

 

 ちなみに面白かったのは上で書いたキズナアイのインタビュー、届木ウカと万楽えねの寄稿文、「三層理論」を導入する難波優輝と私小説バーチャルYouTuberについて論じた新八角です。

 逆によくわからなかったのは、原島大輔、丹生谷貴志、猪口智広でした。