『屋根の上のバイリンガル』おもしろすぎない?
沼野充義『屋根の上のバイリンガル』を読みました。おもしろすぎたので外国語好きの方はぜひ読んでほしいです。
この本は僕が大学1年生の時に読んだことがあるんですけど、そのことをふと思い出してもう一度読んでみました。
沼野先生はロシア語、ポーランド語文学の先生でそれらの文学に関わらず、世界文学について膨大な知識をお持ちの先生で、この本以外にもたくさんの本を出していらっしゃいます。
この『屋根の上のバイリンガル』は簡単にいえば語学エッセイかなと思います。前半は著者の留学や旅行での体験や言語に関わる事柄の文章。後半は理論編と題して、言語にまつわる色々な問題について論じますが、論文ではないので適宜文献を引用しながらも、我々にもわかりやすトピックで行われます。
僕は多言語を必要とする状況やバイリンガルについて少なからず興味があるのですが、本書のはじめはニューヨークにすむクロアチア人について書かれている。筆者がニューヨークの食品店で出会った白人は実はクロアチア人で、彼が子どもとクロアチア語で話しているときにたまらず、子どもの方に何語を話しているのかと尋ねたらしい。クロアチア語はスラヴ語の1つでロシア語やポーランド語を専攻する筆者にはスラヴ語っぽいと言うことまではわかったと言う。
その後店に訪れたとき、うる覚えのクロアチア語で"How are you today?"と聞いたらしい。すると険しい表情をしていた男は突然人懐こそうな表情でいろいろなことを英語で話し始めたという。
これをただ母国語で話しかけたら喜ばれただとか、自国の言語を知っている人にあえば嬉しいだろうと軽く考えるかもしれない。しかし、僕も実際に留学をしたことがあり、自分の興味のある言語に(しかも生の!)偶然であったり、相手にしてもアメリカのど真ん中で見知らぬ東洋人に小国の言語で挨拶されるなど思ってもみなかっただろうことを勝手に想像すると、僕はそれだけでワクワクしてしまうのである。
もしこれに共感をした方には一度手にとってもらいたい。
前半は豊富な海外経験に基づく興味深くまた面白い話であり、後半はちょっと難しい言語学の話だ。しかし筆者は電話に関する話題では電話調に文章を書いたり、女学生の独白風に書いたりするユーモア溢れる章もある。さらに参考文献が日英露で書かれている。こんなにありがたいことはない。
また英語単一主義や狭いものの見方には、容赦無く批判や疑問を投げかかる姿勢も目立つ。僕自身、実用的な英会話などはもちろん必要だが、それだけではなく広く、深い言語の海を大きな視点でみて、きいて、勉強したいと思う。そもそもアメリカで教会スラヴ語を勉強した日本人など一体何人いるのだろうか。そういう意味でも面白い話を聞ける。あとがきまで必見である。
さいごに。本文中にかの有名なデレク・ハートフィールドの言葉も引用されている。
外国語に関するいくつかの本はこちらの過去記事でも。