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『アニメ文化外交』櫻井孝昌 感想

 アニメは外交の武器足り得るのか。本書は「アニメ文化外交」を研究する著者、櫻井孝昌さんによるアニメ文化外交の行脚記録。

アニメ文化外交 (ちくま新書)

アニメ文化外交 (ちくま新書)

 

 皆さんはアニメが好きだろうか。もちろん私は好きである。では、世界の人々にその質問をしてみると、どうなるだろうか?

 答えは”エス”である。

 

  アニメは世界の人々、とくに若者を中心に大ブレイク中であるようだ。著者は各国の大使館やイベント代表などに呼ばれミャンマーサウジアラビア、イタリアなどに赴き、アニメをテーマに講演を行った。そこで浮き彫りになったのは、日本人の知らないところでいかにアニメが受け入れられ、熱狂的なファンを勝ち取っているという事実であった。

 本書ではよく取り上げられるヨーロッパのアニメ事情だけではなく、東南アジアや中東の国々の実態も取り上げている。

 例えば、東南アジアの共和国ラオスがある。そこでも方法はどうであれ、日本アニメは視聴され、クリエイターの目標の一つになっている。しかし、ラオスにはアニメイターや監督などを育成する機関もなければ、その技術もない。モチベーションがあっても日本のレベルでの制作が困難なのである。

 この事実は私は全く知らなかった。まず、アジアで日本アニメがどのような位置を占めているかなどに関心も持たなかった。ヨーロッパでの人気はもちろん中東やアジアでもアニメは良く知られているのである。そういった事実が著者の体験を通して見えてくる。

 

 本書の前半では外国での彼の講演の反応や体験を通した各国のアニメ事情が語られる。後半ではピクサーを代表とするアメリカアニメと日本アニメの比較や、アニメ外交が出来ることなどが語られている。

 始めに、アニメは外国の武器足り得るのか、と書いたが、この言葉の意味するところは露骨な政治利用やビジネスではなく、優しく言えば、もっと日本を知ってもらうためのツールの一つにしようということである。ドイツの学生の中には、アニメは世界平和を訴えているのではないかと考える人もいる。世界でそういった扱いを受けているアニメを使うのは当然であり、目標は相互理解である。もはやアニメは子どもだけが見るものという認識は改める時である。

 アニメに興味がある外国人たちはアニメをどのように愛しているのか。そんな一面が垣間見えるレポートになっており、後半ではアニメ文化外交を広げていきたい著者の気持ちが伺える。

 

 一つだけ注意してほしいのは著者が講演のために外国を渡り歩いたのは2008年から2009年であり、出版年も2009年5月ということである。情報としは古いものとなる。2000年代の海外のアニメ受容として読み進める必要がある。今日では、より活発にアニメによる交流、外交がなされていることだろう。